U=Uを支持できる根拠
U=Uの科学的エビデンス
どのような科学的根拠(エビデンス)から、検出限界値未満(Undetectable)になればHIVを感染させるリスクがゼロ(Untransmittable)となると言うことが出来るのでしょうか?
ウイルス量がコントロールされている人では性交渉を通じてのHIV感染リスクが大幅に低下することが大規模調査として初めて明らかとなったのは、2000年のことです。ウガンダのラカイ県での415組のヘテロセクシュアルのHIV陽性とHIV陰性のカップル(以下「セロディスコーダント・カップル」と言う)の観察研究において、ウイルス量が1,500コピー/mL未満の場合は、カップル間でのHIV伝播が一例もなかったことが報告されたものでした1)。
その後2008年2月に、スイスのザンクトガレン州立病院(Kantonsspital St. Gallen)感染症科のPietro Vernazza博士が委員長を務めるスイス連邦エイズ委員会(Swiss National AIDS Commission)が、スイスステートメント(Swiss Statement)という画期的な声明を出しました2)。その概要は「いかなる性感染症にも罹患していない効果的なART療法によりウイルス量が最低6か月以上抑制されている陽性者は、HIVを性感染させることはない」というものでした。ところがこのSwiss Statementは当時多くの議論を呼び、専門家の中には「エビデンスが弱いのではないか」と疑問を呈する人もいました。
ところがその後2011年になり、このSwiss Statement の内容を実証するHPTN052試験3)という大規模試験が報告されます。これはアメリカ、アジア、アフリカ各国の、主にヘテロセクシュアルの1,763組のセロディスコーダント・カップルをHIV即時治療群と待機群とに分けて観察したところ、HIV即時治療群は待機群に比べHIV陰性パートナーへの感染リスクが96%減少した、というものでした。結果が100%にならなかったのは、一例だけHIV即時治療群で感染してしまった人がいたからでしたが、この一例は抗HIV療法を開始して間もなくの時期に感染してしまった例でした。その後5年以上にわたり観察は続けられましたが、毎日の服薬が良好に継続され、かつウイルス量が6か月以上検出限界値未満に維持されているHIV陽性者から感染した例は、その後一例も認められませんでした4)。
さらに2016年および2019年になり、PARTNER15)およびPARTNER26)という研究の結果がイギリスから発表されます。この研究は、普段もともとコンドームを使わない性行為を行っている972組のゲイならびに516組のヘテロセクシュアルのセロディスコーダント・カップルを調べたところ、ゲイのカップルでは77,000回、ヘテロセクシュアルのカップルでは36,000回のコンドームを使わない挿入を伴う性行為があったものの、検出限界値未満のHIV陽性者から陰性パートナーへのHIV感染はただの一例も認められませんでした。
同じような報告が2017年にオーストラリアからも報告されています。Opposites Attract研究7)という343組のゲイカップルにおいて17,000回のコンドームなしのアナルセックスが観察されたものの、やはり検出限界値未満が維持されているカップルでは一例もHIV感染は認められませんでした。
これらの3つの国際的大規模研究を合わせると、合計約130,000回のコンドーム無しの挿入を伴うセックスが実際に観察されたことになります。しかしながら、ウイルス量が継続的に検出限界値未満に抑えられているHIV陽性者からは、ただの一例もパートナーへHIVが感染した症例は認められませんでした。
このような国際的な大規模なエビデンスが相次いで発表される中、Prevention Access Campaignによるコンセンサス声明が発表されたのでした。